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F-1 空気静圧軸受技術

F-1 空気静圧軸受技術

当社は、超精密加工・超高速加工の基本要素である空気静圧軸受の技術開発に継続的に取り組んでいる。自成絞りおよび多孔質絞りの2方式のそれぞれの特長をより深耕し、レンズ金型の超精密加工や一般金型の高速ミーリング、半導体基板の切断等、用途に応じた機構要素開発を行い、各種超精密加工機械の主軸、ターンテーブル等に適用している。

【プラットフォーム】F.摺動と回転
【適用マシン】超精密加工機械

<技術ポイント>

  • 回転体を非接触で支持する方式
  • 自成絞りおよび多孔質絞りの2方式を採用
  • 軸受摩擦係数が極めて小さく、回転時の発生振動も極めて小さく抑えられる(軸心振れ精度、SPAM法において0.1μm以下)
  • 極微速運動から超高速回転まで対応
  • 半永久的な寿命

1 . はじめに

非球面レンズをはじめとする光学部品の量産技術は、デジタルカメラ、携帯電話、CD、DVD、液晶ディスプレイなど、民生用機器の需要拡大に支えられて大きく発展してきた。金型製作を支える機械加工技術も、時代のニーズに応える形で高度化してきた。工作機械や工具などの要素技術の発展によって切削や研削などの古典的な加工法が進化し、超精密切削や超精密研削と呼ばれる加工技術分野を築くこととなり、現在では、部品の高精度加工には不可欠な技術となっている。加工法の飛躍的な高精度化は、1980年以降、回転主軸に空気静圧軸受を搭載した超精密加工機械の進歩とともに成し遂げられてきた1)
当社は、超精密加工機械の日本における先駆けとして、1977年より空気静圧軸受の開発を手がけ、一貫して高性能を目指し、今日に至っている。本稿では、空気静圧軸受の特長と最近の開発・適用事例について述べる。

2 . 空気静圧軸受の特長

超精密加工機械の回転軸の軸受には、空気や油による静圧支持方式を採用している。回転体を非接触で支持する方式で、軸受の摩擦係数が極めて小さいため、回転時の発生振動も極めて小さく抑えられる技術である。空気静圧軸受には、他の軸受方式では得られない、以下のような優れた特長がある。

  • 軸受摩擦係数が極めて小さい
  • スティックスリップ(すべり面で発生する振動現象)がない
  • 発生熱が少ない
  • 回転精度が高い
  • 極微速運動から超高速回転まで対応
  • 半永久的寿命
  • 静粛
  • 環境を汚さない
図1 軸端面の振動比較結果

図1 軸端面の振動比較結果

このような特長を有する反面、ころがり軸受に比べて、剛性、負荷容量が小さいという短所を持つが、軸受設計の最適化や構成部品の加工精度、組立精度の向上で、工作機械への適用が可能になっている。
空気静圧軸受の軸受すきまに給気する絞りの形態にはいくつかの種類がある。一般に多く用いられている絞り方式には、自成絞り、多孔質絞り、オリフィス絞り、表面絞りなどがあり、回転速度や剛性など、用途に応じて選択される。当社では、自成絞り方式と多孔質絞り方式を主に採用している。表1は、自成絞り、多孔質絞りについて比較したもので、それぞれの特長を生かして、各種の超精密加工機械に適用されている。自成絞り方式主軸と多孔質絞り方式主軸それぞれの軸端面の振動を比較した結果を、図1に示す。多孔質絞り方式は、自成絞り方式に比べ、振動レベルをより小さく抑えることが可能である。

表1 絞り方式の比較
絞り方式自成絞り多孔質絞り
構造自成絞り多孔質絞り
軸受剛性
空気消費量
発熱
主な適用用途工具スピンドルワークスピンドル
ターンテーブル

自成絞り方式の空気静圧軸受は、軸受すき間を比較的大きく(15μm~20μm)取ることができることと、作動流体が粘性の低い空気であるため高速回転時の発熱が少ないことから、主に、小径エンドミル、小径ドリル、超砥粒砥石用の高速回転( 1 0 0 0 0 min-1 ~ 100000min-1)主軸として使用されている。
多孔質絞り方式は、振動レベルを小さく抑えることが可能であるとともに、軸受剛性が高いことも相まって、加工の再現性も高い。このため、高精度化要求の高いレンズ用金型を主なターゲットとする旋削機のワーク軸(旋削用主軸)や旋回用ロータリーテーブルなどに適用されている。また、多孔質絞り方式は、空気消費量も1/6(自成絞り比)に低減されている。
なお、空気静圧軸受を主軸に適用する場合の駆動方式としては、モータ駆動とエアタービン駆動がある。モータ駆動に関しては、高速回転であるためベルトやカップリングなどの伝達機構が使用できず、軸に直接ロータを固定するモータビルトイン方式が採用される。

3 . 適用事例とその効果

3.1 自成絞り方式

図2 高速ミーリング用空気静圧主軸

図2 高速ミーリング用空気静圧主軸

自成絞り方式を適用した最高回転数60000min-1の高速ミーリング用空気静圧主軸を図2に、本主軸を搭載した超精密立形加工機(UVM-450C)の外観を図3にそれぞれ示す。主軸の軸心振れ精度は、60000min-1の回転数において、SPAM(Single Point Asynchronous error Motion)法で0.1μm以下である。本主軸によって、工具回転数60000min-1の高速ミーリングが可能となり、加工時間短縮を可能にした。また、市販の小径エンドミルによる高硬度(60HRC)金型用焼入鋼の鏡面加工をも可能とし、精密金型の磨きレス加工技術開発を牽引している2)

図3 超精密立形加工機(UVM-450C)

図3 超精密立形加工機(UVM-450C)

図4 スライサー用空気静圧主軸

図4 スライサー用空気静圧主軸

半導体基板やガラス基板のダイシングおよび、光通信用V溝基板への溝入れなどに使用されるスライサー(溝入れ・切断機)においても、自成絞り方式の空気静圧軸受を適用している。図4は、スライサー用の自成絞り方式空気静圧主軸を示したもので、軸受剛性を高めていることから、マルチブレード加工(単一主軸での複数ブレードによる多列同時加工)を可能としている。

図5 高精度スライサー(USM-6E)

図5 高精度スライサー(USM-6E)

最近のパワー半導体分野において、基板のSiC化に向けた開発が盛んに行われているが、本分野では、SiCが難削材であるために基板加工工程の生産性に課題がある。当社では、40000min-1の回転数における軸心振れ精度が0.02μmの空気静圧主軸を搭載した新開発の高精度スライサー(USM-6E)(図5)により、切断速度30mm/sec、切断面チッピング10μm以下の高速かつ高精度なSiC基板ダイシングを実現している。なお、本主軸の空気消費量は、軸受設計最適化により、1/2以下(当社従来比)に低減されている。

3.2 多孔質絞り方式

図6 超精密非球面・自由曲面加工機(ULG-100D)

図6 超精密非球面・自由曲面加工機(ULG-100D)

ワーク軸および工具軸に多孔質絞り方式を適用し、直線駆動部に有限形V-Vころがり案内とリニアモータを組み合わせた超精密非球面・自由曲面加工機(ULG-100D)の外観を図6に、ワーク軸単体の外観を図7にそれぞれ示す。また、冒頭図に工具軸単体の外観を示す。ワーク軸の軸心振れ精度は、多孔質絞り方式の適用により、SPAM法で3nm以下を達成している。本機による加工事例を図8に示す。単結晶ダイヤモンドバイトを用いてのレンズ金型旋削加工結果(金型加工面材質:無電解ニッケルメッキ)であり、表面粗さは1nmRa(算術平均粗さ)以下である。

図7 ワーク軸単体の外観

図7 ワーク軸単体の外観

図8 レンズ金型旋削加工面性状(測定器: New View, ZYGO)

図8 レンズ金型旋削加工面性状(測定器: New View, ZYGO)

図9 回転・割り出しテーブル

図9 回転・割り出しテーブル

空気静圧軸受は、回転・割り出しテーブルにおいても適用されている。(図9)
前述の超精密立形加工機をはじめ、各種加工機械のアタッチメントとしても活用されており、テーブル直径800mmの大型空気静圧軸受も製作している。
空気静圧軸受の工作機械以外の適用例として、回転霧化塗装装置がある。毎分数万回転の高速回転運動により、遠心力で塗料を均一に微粒子化する手段として、エアタービンを駆動源とした小型の空気静圧スピンドルが適用されている。空気静圧軸受を採用することによって、溶剤雰囲気での高速回転でも寿命の問題がなく、潤滑剤による汚染も発生させないため、要求にかなった事例である。

4 . おわりに

超精密加工機械の基本性能を支える要素技術として、 空気静圧軸受の特長と適用事例について紹介した。市場からの金型加工の高効率化、高精度化の要求に応えるべく、精度向上や空気消費量低減等の性能追及を継続していくとともに、省エネかつクリーンな超精密機器要素として、工作機械に限らず、適用市場の拡大を図っていく。

参考文献
1)田中克敏:情報化社会に貢献する超精密加工、 砥粒加工学会誌、50、10(2006) 563.
2)天野啓:金型加工におけるナノレベル鏡面切削技術、成形加工、21、4(2009) 172.