0.15μm以細用マスクパターン形成技術を開発(電子ビーム描画装置によるパターンのナノメータ・オーダ制御要素技術開発に成功)

1997年5月14日

概要

0.15μm以細用マスクパターン形成技術

東芝機械(株)と(株)東芝は、共同で、0.15μm以細のデバイス製作に使用されるマスクパターンを描画することのできる、高精度電子ビーム描画装置の要素技術の開発に成功しました。
本研究開発は、通産省プロジェクト「超先端電子技術開発促進事業」の一環として、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)から委託されて実施したものです。

東芝機械(株)と(株)東芝は、これらの研究成果をマスク用電子ビーム描画装置に適用することを検討中です。

はじめに

0. 15μm以細のデバイスは、現在市販されている64MビットメモリLSIの半分以下の、微細な回路パタンを形成する必要があります。これを支えているのが光リソグラフィ技術です。しかし、光の解像限界に近いところでのパターン形成を行なっているため、その際に使われる原版としてのマスクに要求されるパターン位置精度は、ますます厳しいものとなっています。
このニーズに対応できる唯一のマスクパターニング装置として、電子ビーム描画装置があります。東芝機械(株)は、既に(株)東芝と高精度電子ビームマスク描画装置を開発しています。これをベースに、東芝機械(株)と(株)東芝は共同で、0.15μm以細のデバイス製作に使用するマスクの描画を可能とする、要素技術の開発に成功しました。研究テーマは、「超高精度遮光システム技術」で、(株)東芝および東芝機械(株)が担当したサブテーマは、「電子ビーム光学系の超高精度制御技術および電子ビーム描画技術の研究開発」です。

要素技術

最小の線幅として、ウエハ上で0.15μm以細パターンを作る場合、4倍体のマスク上ではこのサイズが0.6μm以下となりますが、その精度は寸法で10~20nm程度が要求されています。この目標を達成するための要素技術として、

  1. 電子光学系の自動制御技術の研究開発
  2. in-situ洗浄技術の研究開発
  3. 大容量遮光体パターン近接効果補正技術の研究開発

の3項目の研究開発を行ない、技術的目処をつけました。

今後の展開

今回の委託による研究開発で目標とした、ナノメータ・オーダの高精度制御が可能であることが確認できました。また、これを実証するために製作した試作機も完成しました(写真)。今後、東芝機械(株)では、この要素技術開発結果と装置製作技術をもとに、これらの成果を、高精度電子ビームマスク描画装置へ適用することを検討中です。

参考資料(要素技術内容)

(1) 電子光学系の自動制御技術の研究開発

高精度な描画のためには、電子ビームの高精度な計測と電子ビーム光学系の高精度自動調整技術が必要です。正確な電子ビーム形状を得るために、50kV高加速電子光学系の開発、ビーム位置を高精度に計測するためのマークの開発、ビーム形状を決めるアパーチャの改良、ビーム制御単位の微細化をはじめとした様々な改良を行ないました。
また、自動調整機能としては、ビームをレンズなどの中心に合わせる機能、電子ビームの位置を正確に制御するための調整機能、焦点・非点合わせ等、多くの機能がありますが、調整アルゴリズムを開発するとともに自動化を図り、従来オペレータの調整で生じていたばらつきを極端に低減しました。例えば、最も重要なビーム偏向感度調整では、調整精度を従来の20nmから2nm以下にすることができました。これによって、ナノメータ・オーダ(1mmの百万分の1の大きさ)での、ビーム調整が可能となりました。

(2) in-situ洗浄技術の研究開発

電子ビーム光学鏡筒を通過する電子ビームは、鏡筒内の汚染物質(炭化水素系の物質等)がチャージアップすることによって、その軌道が変化します。電子ビームドリフトは、描画精度の悪化、高精度自動制御の性能を悪化させます。これの防止と回復には、頻繁な洗浄が必要ですが、そのたびに鏡筒を分解しており、その際、新たな汚染物質の導入を誘発したりして、マスクの製造効率やドリフトの長期安定性に大きく影響していました。そのため、鏡筒を分解せずに洗浄を可能とする、in-situ洗浄技術の採用が必須でした。
今回、酸素(O2)とフロン14(CF4)のラジカルガスによる洗浄方法を開発し、電子鏡筒に取り付けました。これには(1)の電子光学系の開発で、in-situガスを問題無く流入できる構造の電子光学系の開発が必要でした。汚染された電子ビーム偏向器を組み込んで実験した結果、洗浄前のドリフトが26nmであるのに対して、in-situ洗浄後は4nmに減少することを確認しました。

(3) 大容量遮光体パターン近接効果補正技術の研究開発

電子ビーム形成時の解像性を向上させるために、加速電圧50kVの電子ビームを使っていますが、電子がマスクに反射散乱して、追加露光する近接効果の影響がますます大きくなります。従来、高速の計算機で近接効果の影響を計算し、電子ビーム照射量の補正値を計算する技術はありましたが、それでは30~50nmの誤差を生じ、0.15μm以細世代のマスク寸法を保証できません。また、要求精度を満足するために計算精度を向上させ、150mm×150mmの領域を描画するとした場合、最新の200MIPS複数CPUの汎用計算機でも、100時間を超える計算が必要となります。
そこで、新しく考案された近接効果補正計算方法を、デジタル電子回路で実現した、リアルタイム近接効果補正回路を開発しました。この回路は、実時間で約±1%の精度で、照射量の補正計算を行なうことができます。この精度は、パターン寸法に換算して約5nm以下に相当し、従来の10倍以上の計算精度を実現できたことになります。照射量補正計算は、150mm×150mmの描画領域を約30分で行なうことができます。また、この照射量計算は描画と並行して実施するため、描画時間を増加させることはありません。

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